R’sスケッチブログ

日常のスケッチと文章

祖母の記憶は昔の事ばかり

祖母の街


私の祖母は今年93歳になる。

認知症のため、いろんなことを忘れてしまっている。しかし、昔の出来事はよく覚えている。

 

祖母が小学校の時は戦時中だった。

昔から歌の上手だった祖母は、ある日先生に皆んなの前で歌を歌ってほしいと頼まれたそうだ。その日から上手に歌えるよう、滝の前で毎日歌って練習した。そして本番当日、みんなの前で歌を歌ったところ、みんな泣き出したそうだ。その姿を見て、祖母も泣いたらしい。

 

また、戦争中に亡くなってしまった兄弟の話をよく聞く。祖母の兄は頭が良かったので、徴兵されてから事務仕事をしていたらしい。しかし、建物の裏口から敵が入ってきて、撃たれて死んだ。

祖母は小学校にいるときに、先生から「お前の兄が死んだとの連絡があった。すぐ帰れ。」と言われ、何にもない田んぼみちを一人で一里歩いて帰った。長い道のりを一人で歩いていく当時の祖母の心境を考えると、とても胸が締め付けられるような感覚になった。

 

祖母の兄弟はみんな死んでいるため、末っ子だった祖母が死んでしまったら、戦争で死んだ兄弟や、戦時中みんなの前で歌った出来事などが、消えてしまう気がして。誰かが覚えていないと、最初から無かったもののように感じられて、無性に寂しくなった。

昔の話をしてくれることで、祖母の兄弟や、祖母が過去に出会ってきた人々と唯一繋がれるような感じがして、私は嬉しい。

 

R